背負い搬送術


山でパートナーが負傷して歩けなくなった時、ふもとまでの長い距離を担いで歩くための「搬送術」。今回はそれらのいくつかを試してみました!!
※本特集は「別冊山と渓谷 山で死んではいけない」(2005)を参考にしました。

 
空のザック・トレッキングポール・シャツを利用した背負い方。
負傷者役はKさんに断られたためしじみ母です。

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山で事故にあって負傷者が出たら、普通はまず携帯電話で救助ヘリを呼びます。負傷者の治療が一刻を争う場合、負傷者を担いで下りるよりも、ヘリで運んでもらった方が結局は速いことが多いからです(※1)。ヘリを呼ぶほどでもない程度の負傷なら、たいていは自力で歩けるので、「負傷者を担いで山を下りる」という場面は、実際はそうそうないのかもしれません。

しかし、降雨時や強風時は、ヘリが飛べないこともあります。またそういう悪天候時こそ、事故は起こりやすいもの。今回はそんな場面を想定して、本に載っていた「背負い搬送術」を実践してみました!(もちろん、仲間が軽い捻挫を起こした時や、お子さまがグズった時にも役に立ちますよ〜 ^-^ )

背負い搬送の基本は「おんぶ」ですが、おんぶは負傷者の足(モモ)を支える腕があっというまに疲れてきて、あまり長い距離を歩けません。また両腕がふさがっていると、バランスがとりづらくて危険です。そこで、腕を使わずに背負う工夫が必要になってくるわけですが、それにはいくつかの方法があります。

まずはもっともポピュラー(?)な、「ザックを逆さにして、負傷者の足をショルダーベルトに通す」方法に挑戦してみました。

空にしたザックのショルダーベルトを目一杯伸ばし、負傷者の両足に通して、その後ショルダーベルトに搬送者が腕を通す・・というのが常道らしいのですが、しじみの45Lザックではショルダーベルトが短く、両足を通した時点でキチキチに( >_< )とても腕が通りません。
このザックでは「逆さザック法」は無理なのか・・とあきらめかけたその時、ふと気づきました。しじみのザックはウェストベルトが輪になっているので、ここに搬送者の腕を通せばいいではないか!!


*この時はしじみが負傷者役。搬送者はウェストベルトの輪に腕を通して
背負えば、ザックが簡易ネンネコになり、負傷者の足を持たなくてすむ。

ウェストベルトもけっこうギリギリでしたが、なんとか搬送者(しじみ母)の腕を通りました。それで一度背負われてみたのですが・・うーん・・股間が痛い。
役割を変えて、今度はしじみが母を背負ってみましたが、やはり「痛い」と言います。性別を問わず痛いようです。

というわけで、この方法は「ショルダーベルトの余分がかなり長いか、ウェストベルトの両端が輪になっている」ザックでないと使えない上に、使えても股間が痛いので、ボツに決定。体重の軽いお子様なら大丈夫なんでしょうか・・。

というわけで次の方法。
次は本に「背負う人も背負われる人もラク」と書かれていた、ちょっと手の込んだやり方です。着替えのシャツまたは合羽などの両袖を、ザックのウェストベルトにくくりつけます。そして裾の両端に石などを丸め込み、細引きでしばります。

 

ザックは荷物を出してほぼ空にしておき、底の部分にだけ、着替えなどクッションになるものを入れます。負傷者をそのクッションの上に座らせてからシャツを持ち上げ、細引きをショルダーベルトにくくりつければ、さっきよりは比較的リッチなネンネコの完成!・・なんですが、できてみるとワラワラと欠点が出てきました。

まず、負傷者をネンネコにセットするのがちょっと難しい。時間もかかるし、負傷者に無理な体勢を強いることになりがち。慣れればそうでもないのかもしれないけど、ネンネコに慣れている大人というのもそうそういないと思うので・・。

また、お尻を置くクッション部分がどうもすべってしまうらしく、母いわく「お尻がシャツまでずり落ちて底が抜けそう」とのことでした。確かに、本には書いてあるものの、実際ザックの底に多少物を詰めただけで、そこに尻が安定して座るとはちょっと思えません。U字型の固い板のようなものでもあればいいのですが・・んなもん装備の中にあるかって( ^-^;)

さらに母より「そもそも負傷者が出て切羽詰まっている時に、こんな手の込んだものを作ってられるの?」という大前提が崩壊する意見も飛び出し、それもそうだ、ということで、この方法もボツに・・黒星続きです。

三度目の正直、ということで今度は「トレッキングポール(ストック)で足を支える」方法に挑戦。2本のポールを束ね、さらにシャツでくるみます。束ねるのにはビニールひもを使いましたが、実際にはリペアテープでやった方が手早くでき、かつ頑丈でしょう。

 

そして、ザック(中味は空にしておく)のショルダーベルトをひとひねりして作った輪に、束ねたポールを通して完成。少々時間はかかりますが、先のリッチネンネコほどではありません。

 

この方法は、まずは普通にザックだけを背負うので、上記2つの方法のように「ベルトに腕を通す時に負傷者の体重がかかって肩を脱臼しそうになる」ことがありません。負傷者の側も普通におんぶされるのとあまり動作が変わらないので、無理な体勢をとることもなく、あれこれ説明を受ける必要もナシ。たいていの人は見ただけで「ポールに太ももをかける」ことに気づきます。

 

背負ってみると、母いわく「あ、これが一番ラクだわ」とのこと。背負うしじみも、今までで一番ラクでした( ^-^ )

この方法は上記2つのようにネンネコ状態(負傷者の体が搬送者の背中にロックされている)ではないので、背負い上げる・降ろすの動作がしやすく、それらの動作時に転倒するなどのリスクも比較的少なめです。ただし、上記2つと違って負傷者の体が固定されないので、負傷者の意識が朦朧としている場合などはかえって危険かもしれません。また、急斜面や岩場を歩く時(=搬送者の体が大きく揺れる)は、負傷者が振り落とされる危険性もあります。

というわけで、デメリットもありますが、やってみた中ではこれが一番良かったので、しじみ流搬送術はこの「ポール法」に決定!皆さんも万一の時に備えて、ぜひ一度家で練習してみてください!(ただし転倒したり肩をはずしたりしないよう、くれぐれもご注意を・・ ^-^;)

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なお、「ポール法」以外の2つの方法については、写真が少ないのでもうひとつ意味が分からない方も多いかと思いますが、いずれもきちんと説明するには多量の説明写真が必要であり、かつ結局の結論としては「これらの方法はボツ」なので、大まかな内容だけにして詳細は省きました。手抜きでごめんなさい( ^-^;)興味のある方は、実際にやってみると、しじみの言っている意味が分かると思います。


※1 補足

また、負傷者が頭または腹部を強打している場合、あるいはアキレス腱が切れている場合などは、無理に立たせると様態が悪化してしまいます(このような時はヘリが来る来ないに関わらず、担架以外での搬送は試みないこと)。さらにシロウトの搬送では、焦りから二次事故(搬送者が負傷者を背負ったまま転ぶなど)の危険も大きいです。基本的に、応急処置を済ませたら、あとはプロの救急隊員が来るのを待った方が良いでしょう。

この項で書いた「背負い搬送」を使うべき状況は、まず悪天候等でヘリが来れない場合で、かつ負傷者の様態が以下のような時です。

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