山岳保険  vol.3 山岳保険・ここに注意!


山岳保険も他の保険と同じように、「約款」すなわち決まり事があります。自動車保険で言えば「飲酒運転による自損事故には保険金を払いません」みたいな、○○のケースでは保険金を払う、××のケースでは払わない・・といった細かい決まり事です。ここでは、多くの山岳保険に共通する「保険金が払われないケース」を紹介します。

1,「登山届」を出さなかった

登山届とは、「○月○日に△△山を××のルートで登ります。下山は○日○時の予定です。やましじみ」・・みたいなかたちで、登山概要を簡単にまとめたメモ書きです。「届」などというと大げさですが、特に決まった形式はなく、最低限「だれが」「いつ」「どこに」さえ書いてあれば、チラシの裏に走り書きしたものでも何でもいいのです。これを登山前に書いて家族や親しい知人などに渡します(一人暮らしの人はFAXなりメールなりを駆使してください)。

なぜこれが保険金の支払いに関わるのか?それは、もし登山届を出さないまま遭難して死んでしまった場合、自殺の可能性を疑われるからです(なんてこったー!)。当然、自殺と判断されれば死亡保険金は出ません。レジャーとして登山に行った、もちろん帰ってくるつもりだった・・という本人の意思を証明するものとして、登山届が必要なのです。

バカバカしい話ではありますが、確かに死に方によっては判断に迷う場合もあるので、遺族に迷惑をかけないよう、いつも登山届を出してから山に出かけましょう!

もちろん、保険の話以前に、遭難対策として登山届を励行されている方も多いと思います。自分が遭難した時に下界じゃ誰も気づいてくれなかった、そもそも登山に行ってること自体誰も知らなかった・・というのでは救助の可能性もゼロですから。迅速な捜索活動を行ってもらうためにも、登山届は重要です。

なお、登山に無知な家族に「今度の登山は水沢峠から宮指路岳まで行って猪足谷林道に降りてきます」とかローカル地名を並べても分かりっこないので、しじみの場合は「マピオン」で縮尺1/75000か1/150000の地域地図をプリントアウトし、ルートを簡単に描き込むようにしています。これだけ小縮尺なら、山に詳しくない人でも周囲の地名から場所が分かるからです。紙の余白に登山日時、帰宅予定日時、自分の名前を書き込んで、あと山岳保険会社の連絡先もつけて、しじみ版登山届は完成です。わずか10分でできますから、自分の死後の名誉のためにも、登山届は作らにゃソンソン!

2,山で病気になった

「保険金が払われない場合」その2は、山で病気になった場合の救助費用、および治療費です。これは保険によっては払われる場合もありますし、病気の種類にもよるので一概には言えないのですが、ここで注意するべきは、「山岳保険はあくまで『山岳』事故の保険である」ということです。
え?なに言葉遊びみたいなこと言ってんだって?(^-^;)

つまり、山岳保険は「山という危険地域でケガをするリスク」に対する保険であり、病気の場合はそれが「山だから起こった」のではなく「たまたま山で起こった」と見なされてしまうため、保険金がおりないケースが多いのです。これは登山者からすれば「そりゃあないだろ!」と思える考え方のため、最近は病気の場合も補償する保険も出てきてはいるようですが。

確かに、山で歩けないほどの病気になる可能性は、ケガに比べればかなり低いです。病気の兆候があるならそもそも山に登らないし、長期登山中に風邪などで熱を出しても、鎮痛剤や解熱剤で抑えて、さっさと下山すれば大事には至らないでしょう。

しかし、心臓病など発作をともなう持病がある方は、このケースに陥る可能性を考えなくてはなりません。保険に入る前に約款をよく読み、病気に対する補償がない場合は、何らかの特約をつけるなどの善後策が必要でしょう。しじみ自身は特に悪いところがないので(顔と頭と性格以外は ^-^;)、今のところ対策していませんが・・。

3,引率責任を問われた

自分よりも登山の経験が浅い同行者が事故にあった場合、自分が直接の加害者ではなくても、「パーティーの指導者としての責務をおこたった」として遺族などから訴えられることがあります。これが「引率責任を問われる」ということです。裁判になれば弁護士費用などが必要ですし、裁判に負ければさらに賠償金を払わなくてはなりません。

登山仲間の負傷や死亡なんて考えたくはありませんし、さらにその家族との訴訟争いなんて、悪夢以外の何者でもありません。しかし、残念ながらそういうこともあるのが現実。よく友だちを誘って登山するという方は、山岳保険がこの種の費用を補償してくれるかどうか、加入前に確かめておくべきでしょう。

全く払ってくれない保険もありますが、「非営利の登山活動ならば、パーティーの引率責任を問われた場合の裁判費用・賠償費用を支払う」というところもあります。多くのハイカーが「引率責任を問われたらヤだから、友だち誘うのヤーメタ」というふうにならないよう、こうしたケースをしっかり補償してくれる保険が増えてほしいものです。

規模の大きな団体のリーダー向けには、より高額な補償が可能な「リーダー保険」を別途設ける保険会社もあるようです。大手登山団体の幹部や、高校山岳部の顧問の先生などは、おそらくこうした保険に入っているのでしょう。

高校山岳部といえば、しじみの山岳部時代の顧問の先生方は、キャンプの夜に生徒を巻き込んで酒盛りを始めるという、とんでもない不良オヤジたちでした(でもそんなセンセーたちが好きだったなぁ ^-^;)。
しかし今にして思えば、彼らは生徒が遭難して、その遺族に訴えられるというリスクを承知で顧問をしてくれていたわけで、実は立派な人たちだったんだなーと思う今日この頃です。

引率責任というのはまさにケースバイケースで、リーダーが何をすればそれを果たしたことになるのか、明確な決まりはありません。不可抗力でどんな優秀なリーダーでも防ぎ得なかった事故もあるでしょうし、逆にリーダーがムチャな指示を出したがために、余計な事故を引き起こしてしまうケースもあるでしょう。

ここからは、しじみの勝手な持論になりますが。

全員がある程度登山経験のあるパーティーでは、リーダーの意見に従った時点で、それはメンバー各人の自己判断であり、自己責任になると認識すべきだ・・としじみは思います。リーダーの意見に従ったことで事故が起こったとしても、その責任をリーダーに押しつけてはいけません。全員がきちんとした技術や知識をもって登山にのぞめば、たとえリーダーが間違った指示を出してもそれを訂正できるでしょうし、そうした努力をおこたってリーダーの指示に盲目的に従い、事故にあったのなら、そんな人にリーダーを責める資格はないのです。

パーティーがそういう考え方でなければ、善意や責任感からリーダーをかってでた人が、あまりにもカワイソウ。リーダーがひとりババを引くようでは、そのうちリーダーのなり手がいなくなってしまいます。

しかし逆に、まったくの初心者を登山に誘う場合は、さすがにリーダーの側でいくらかの配慮が必要になります。これらをしないリーダーには初心者を誘うべきではないし、事故で訴えられても弁解の余地はないでしょう。

かつてはしじみも「前に登った山にもう一度登るなんてツマンナーイ」とか「事前にいちいちルートの説明をするのはメンドくさい・・」と思って、誘った初心者の友人に何の説明もしないまま、未踏ルートを登ったこともありました。

でも、もしそれが原因で友人を失い、その家族に責められ続けるような事態になったら・・お金の問題を抜きにしても、打たれ弱いしじみはもう二度と山に登れないぐらい凹んでしまうでしょう。山岳保険を調べていてそうした訴訟事例を見た時以来、しじみは初心者を誘うにあたって、上記3点を必ず行うことを心に決めました。

ちなみに、3つ目のルート説明にあたっては、登る山について詳しく紹介しているサイトをネット検索で探し、そのURLをパーティーのメーリングリストに流すとか、ページをプリントアウトして配るなどすれば、手間をかけずにパーティー全員がルートについての共通認識を持つことができます。当サイトのルート図や山データのページもどんどんご活用ください!(ドサクサにまぎれて宣伝活動)

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・・以上、3回に渡って賠償だの訴訟だのと重たい話を繰り広げてまいりました。テーマがテーマだけにギャグも少なめで、読者の皆さんがブルーになっておられたらゴメンナサイです(^-^;)

ただ、良いオマジナイに力を与えるには悪いオマジナイも知らなくちゃいけない、みたいな感じで(コレ原典分かるかな・・)、こういうネガティブ系の話は、楽しい登山を末永く続けるための良い反面教師になるんじゃないかなーと思って、あえて長々書きました。ここまで読んでくださった皆様、ホントにありがとうございました!


皆様の安全で楽しい登山を、心よりお祈りいたします。   やましじみ

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