レスキューシート

=サバイバルシートG/S(ハイマウント)=



遭難時用の保温シートです。圧縮してパックに詰められており、とってもコンパクト。開封して広げると掛け布団ぐらいの大きさになり、ペラペラのアルミシートながら「毛布なみの保温力」(※1)を発揮するそうです。ちなみに特殊技術で圧縮してあるため、一度広げてしまうと二度と元の圧縮状態に戻りません。大風呂敷を広げると取り返しがつかなくなるという人生訓を暗示している・・わきゃないか。

実は、「使える道具」として紹介しておきながら、しじみは自分でこれを使ったことがありません。(逆に頻繁に使ってたらこわいけど・・遭難時グッズなんだし)一度だけ、人にあげて使わせたことがあるだけです。それも遭難時ではなく、テント泊の補助保温具として。

それは大学生時代、サークルの仲間10人ぐらいの大所帯で、青森県まで遠征した時のことでした。(ちなみに、このサークルは登山サークルではなく学術系サークル。あんまり学術してなかったけど)

八甲田山のふもとの酸ヶ湯温泉という山奥の温泉にたどり着き、近くのキャンプ場にテントをはったしじみたちは、「千人風呂」で有名な混浴大湯治場(ちょっと期待したけどおばちゃんが数人いただけ・・)で汗を流し、自炊したカレーをガツガツかき込んで、さあ寝ようかというところでした。

季節は夏でしたが、本州の北端の山奥のこと、ものすごく冷え込んできました。そこに後輩のヤローども3人が衝撃の発言。

後輩「え?寝袋なんか持ってきてないっすよ」「俺も」「俺もー」
しじみ「せ・・せめてタオルケットとかは?」
後輩「ハンドタオルなら・・さっき温泉で使ったやつ」

そんなもん使ってようが使ってまいが意味ねえよ
、と心の中で毒づきながら(←立場弱っ)、しじみはしかたなく彼らにレスキューシート2枚を渡し、とっておきのアルミマットも渡し、さらに一番いいテントと一番いい高台のテントサイト(このキャンプ場あんまりいい場所がなかった・・)をあてがい、残る女子班としじみ同期生班は低地にはったちょっとボロいテント2つにそれぞれもぐりこんだのでした。

ところが。さあ寝ようという頃に大雨が降ってきました。そしてしじみの最も恐れていた事態が・・。

そう。浸水。ただでさえ寒いのに、水が背中を濡らしはじめて激しくブルー。中央に寝ていたしじみに各方向から水が流れ込んで、水深1cmぐらいの水たまりの中で震えながら眠るというかなりハードな状態。耳元で小さな川がサラサラと流れる音なんて思い出したくもない。隣りで眠る仲間たちも、多少はマシでも似たようなアリサマで、「どうする?」「・・どうしようもないしなあ」と苦笑いをかわすのみ。

と。テントの入り口をノックする音が。チャックを少し開けると、傘をさして出てきたらしい女子班の面々。彼女らのテントもやっぱり浸水して、ついにテント放棄に至ったようです。

「どうするの?」
「アタシら管理棟のおじさんのところで寝かせてもらうわー」
「そっか。気をつけて」

あーそのテがあったか、と思ったものの、管理棟はそんなにたくさんの人が入れるほど広くないし、それになんだか一緒にいったらイヤラシイような気がして、しじみ班の面々はしょーもない片意地をはり、また水たまりテントに横たわったのでした。

(後日談:実はこの時、彼女らはしじみたちに一緒に来てほしかったそうです。女の子だけで管理棟に行くのはやっぱり不用心だから。でもそういう女心に壊滅的にニブいしじみたちはまったく逆の判断をして、後で女子たちに怒られました。ていうかそんならそう言えよ、というのはヤボなのかな・・)

永遠とも思える夜が続きました。そして、待ちに待った朝。朝になったとたん、いやがらせのようにピタッと雨がやみました。我々日頃の行いが悪いのか・・。

テントからはい出してみると、朝の光の中に、後輩たちのテントが抜群の防水効果を発揮していました。水滴が玉になって落ちてやんの。もう起きてるだろうと思って開けてみると、ヤツら爆睡してやがる。テント内はぜんぜん浸水してなくて、レスキューシートを仲良くかぶってスヤスヤ寝ていました。ちゃぶ台返しならぬテント返しをしてやりたい衝動にかられました。ちくしょー。

そんなわけで、レスキューシートはコンパクトながら最低限の保温力があり、1枚で2人かぶれる大きさ(1人なら巻いてしっかりくるまれる ※2)で、日帰り登山時の遭難の備えとして必携の道具です。(たったこれだけのことを言うのにどれだけ文章書いてんだか・・)

とはいえ、シートだけでは夏の晴れた日はともかく、風雨にさらされた場合は凍え死んでしまうので、ツェルト(ヒモ吊り式簡易テント)などとセットで持っていく必要があります。

また、日帰り登山でも、以下のような場合は簡易遭難グッズではなく、ちゃんとした寝袋、シュラフカバー(寝袋防水カバー)、テントを持っていくべきです。

1,単独行の場合
ケガや急性疾患で動けなくなった場合、2人以上のパーティーなら元気な者が助けを呼べるので、山中にとどまる時間は短くてすむのですが、1人で遭難した場合は、助けが来るまで(もしくは動けるようになるまで)かなり長い時間を山中で過ごすことになります。この時、身体的にはもちろん、精神的な意味でも、ある程度の住環境を確保しないと命にかかわります。そもそも動けなければツェルトも吊れないし・・。

2,雪山の場合
しじみは高校時代、雪山でのテント泊を経験しましたが、しっかりしたテントの中で、服を5枚重ね着して、冬用の寝袋にもぐりこんでもまだ寒いです。テント内で一番寒い入口付近に誰が寝るかでケンカになりかけたぐらいマジに寒いです。レスキューシートとツェルト程度では、眠ったが最後二度と目覚めることはありません。

あと、しじみごときに言われるまでもないと思いますが、テントなりツェルトなりを張る時は、小高い場所を探すか、周りに側溝を掘って雨による浸水を防ぎましょう(合言葉は「側溝を速攻で掘ろう」by 山岳部のH先輩)。また、日頃からテントのフライシートには防水スプレーをかけておきましょう。テントの床に世界地図が形成されていくのをなすすべもなくながめるのはツラいですから・・。



※1
ただしこの売り文句には非常に疑問があります。ハイマウント自身はこの種の表現を避けており、使っているのは一部の販社や、類似商品のメーカーです。

※2
ただしくるまるためにはテープで成形するか、筒型レスキューシート(ビバークサック)を使う必要があります。

1,2ともに、詳しくはビバーク演習をご参照ください。



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