山岳保険 vol.1 捜索費用編


ドライバーに自動車保険があるように、ハイカーには「山岳保険」なるものがあります。「山の事故はとにかくお金がかかる!」・・のだそうで、中高年登山ブームにともなって登山事故が増加している昨今、保険会社や登山団体などがいろいろな保険を設けて加入を呼びかけています。

しじみがこの「山岳保険」に興味を持ったのは、リンクさせていただいた「女性のための登山学校」で詳しく紹介されていたのがきっかけ。(Special Thanks 寺嶋様)
それまではそんなの考えたこともなくて、年間25日ぐらい山に登って、けっこう危険なとこにも入り込んでるくせに、「まあ事故ったらその時よ」と刹那主義(?)をきめこんでいました。
「ケガや病気の治療は健康保険で何とかなるだろうし、万一の時には家族に生命保険がおりるし、だいたい死んじゃったら後のこととか知ったこっちゃないし〜」なんてお気楽に構えていたわけです。部屋に隠したエロ本だけは心残りだが

しかし!自分のケガや死亡に限っていえば確かにそうなのですが、山の事故の場合、他に様々な費用発生要因があることが、調べていくうちにわかってきました。

  1. 自力脱出ができず、捜索・救助を受けた場合の費用
  2. 同行者を過失によって負傷、または死亡させた場合の賠償費用

・・なんか某法律番組っぽい内容(特に2)ですが、ネット検索をかけると実際に訴訟争いも出てきてかなり凹みます。しかもこのどちらもが、莫大なお金を払わされるものばっかり。気をとりなおしてそれぞれについて書いていきましょう。(^-^;)

まずは1の捜索・救助費用について。「これはタダじゃないの?」と思われた方がいるかもしれません。

そう、日本の場合、登山遭難者の捜索はまず警察や消防団が行い、彼らによる捜索費用は税金でまかなわれるので、この場合の遭難者の費用負担はゼロです。日本はすばらしい国ですね。
(もちろん、タダだからってこれに甘えるようなことは絶対あっちゃいけませんし、救助ヘリをタクシーがわりに呼ぶなんてのは論外ですが・・)

しかし、いつもいつも警察が全面的に捜索手配してくれるとは限りません。公共の手が回りきらず、民間団体やヘリ会社に手を借りる場合もよくあるのです。捜索・救助費用を負担費用に入れたのはこのため。具体的には以下のような場合です。

<捜索隊に民間組織を起用する例>

<民間会社のヘリを起用する例>

これらの例を見ていると、むしろ民間の手を借りないことの方が少なさそうです。こと山岳遭難に関しては、頻度が少ない割に、ひとたび起これば大がかりな救助活動が必要なため、警察としても十分な設備や人員があらかじめそろえられない・・というのが現状なのでしょう。

そりゃ公務の方々も、普通に暮らしている一般市民の安全を守るならともかく、危険地域にわざわざ入り込んで勝手に遭難してるヤツらの面倒までいちいちみてらんないわけで。某国人質事件じゃないけど
警察が民間の手を借りるのは仕方のないことで、むしろ捜索してくれること自体、とてもありがたいことだと思います。

では、民間企業・団体に捜索を依頼すると、いったいどれだけお金がかかるのか?調べてみるといろいろな事例があって一概には言えないのですが、だいたいこんなかんじです。

<捜索隊>※日額
出動手当:3万円(雪山は4〜5万円)×人数
諸経費(食事、用具、交通、宿泊等):2〜3万円×人数

<救助ヘリ>
1回のフライトで130万円(最低料金)。悪天候だったり、救助が困難な場所だったりして飛行時間が延びると、数十万円単位で料金がはね上がります。ボッタクリタクシーもびっくりの加算っぷりです。

仮に捜索隊20名、ヘリ1機で1日捜索してもらったとして、最低でも230万円。ヘリを使わなくたって、捜索隊だけで100万円です。しかもこれは日額。遭難者が見つからずに何日も捜索を続けるとなれば、毎日数百万円単位のお金が飛んでいくことになります。キャー!

捜索依頼は普通、登山者が帰って来ないことを心配した家族が警察に届け出ます。負傷による遭難の場合は、同行者が下山して通報することもあるでしょう。あるいは携帯を使って、遭難者本人がSOSを出すこともあります。

いずれにせよ、依頼を受けた地元の警察は捜索手配をし、民間の手を借りることになった場合は、まず手続きとして遭難者の家族に費用負担の了解をとります。

警 察



しじみ母
「息子さんの捜索の件ですが、あいにくヘリも人員も出払っておりまして、民間のヘリと登山団体に依頼しようと考えております。費用が1日で230万円ほどかかりますが、よろしいですか?」

「半分ほどに負かりませんか?」

・・まあ、こんなふうにディスカウント交渉を始める親は実際にはいないわけで(^-^;)、普通はいくらかかろうとも、大切な家族のこと、言い値で依頼することになるでしょう。たとえ数日たっても見つからず、警察の捜査が打ち切られた場合でも、わずかな可能性を信じて捜索を続ける(もうこうなったら捜索費用は全額負担です)のが肉親の情というものですよね。

でもそうなったら、費用は数百万円から一千万円以上にふくれあがってしまいます。それだけのお金をポンと払うのは、よほどのお金持ちでなければムリですよね。しじみはもうこの時点で恐ろしくなって山岳保険に加入しました。

ところが。実は捜索費用はまだ安いほう。先ほど書いた2、すなわち対人賠償責任の場合は、数千万から億のお金がかかってしまうのです。もはやしじみにとっては天文学的数値です。死兆星が見えます。

というわけで、次ページはその対人賠償の話と、山岳保険の種類について!といっても特定の保険の勧誘じゃありませんので、警戒せずに読んでくださいね!(^-^;)


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